思いの継承、そして昇華|Vol.6 スタッフの思い

これまでの5年間、「ネクスト御殿場」をキーワードに17コース全体のレベルアップを図ってきた太平洋クラブ。六甲コース、江南コース、成田コース、美野里コースではトーナメントの開催にも積極的にアプローチし、確実にその軌跡を残してきた。
今年は「御殿場のネクスト」とばかりに、グループのベンチマークである御殿場コースの改修に着手。

リース・ジョーンズ氏と松山英樹選手という世界的な才能を配し、18ホール全てに及ぶ壮大なプロジェクトであったが、工期約9ヶ月という電光石火の離れ業によって、10月1日、グランドオープンを迎えた。

名匠・加藤俊輔氏の原設計を、“オープンドクター”リース・ジョーンズ氏が知的に磨き上げた新生・御殿場コース。「三井住友VISA太平洋マスターズ」の開催に向け、スパルタンなトーナメントコンディションへと仕上げられていく。

新たなるスタート

世界でも前例がないであろう、コースを開場しながらの大改修。造作作業は深夜にまで及び、想像を越えるタフな日々だったと語る御殿場コースの小林泰隆支配人。

「メンバー様を始め、ご来場いただいた方々にはご迷惑をおかけしましたが、おかげさまで10月1日にグランドオープンを迎えることができました。2001年以来の大きな改修といわれておりますが、実際はその時をはるかに超える規模であり、工事が進むにつれ、制限エリアが多くなる中でのラウンドにおきましても、みなさまのご協力とご理解には本当に感謝しております」。
いつも美しさを湛えてきた御殿場コースが、工期の過程では大きく芝生が剥がされ、土が剥き出しになり、重機が置かれることも。毎日コースと向かい合う中で、プレーヤーへの感謝が真に募っていったという。それは小林支配人だけでなく、コーススタッフ全員が感じていたことでもあるという。

同時に、だからこそ「絶対に失敗してはいけない」という使命感も一層強くなった。今回のプロジェクトは新たなステージに向かうための「必然」と自覚し、最良の節目となるべく、コースだけでなく全てのサービスを見直し、全てのクオリティを「世界基準」にすることをミッションとして課した。

「フロントでは5スターホテルのような接客を目指し、レストランでは『これを食べるだけでも来場したい』と思っていただけるようなメニューの開発と提案に励んでおります。グランドオープンの際には食器やクロスも刷新されます。またEプロジェクトという英語学習のプログラムもスタートし、フロント、レストラン、キャディ、サービススタッフ全体で参加しております」。
期待と不安、時には不甲斐なさが交差する日々だったが、これまでのキャリアの何年分にも相当する濃密な時間だったという。

最高の舞台を目指して

そんな中でも小林支配人が「一番大変なのは」と指摘するのが阿佐比一キーパーだ。グランドオープンは一つの区切りではあるが、「大変さ」は現在進行形という。

「私たちコース管理の仕事は『均一』を最大のテーマにしています。芝の色、葉の数、硬さなどを、18ホールの全てで均一にすべく、日々、毎年、何十年をかけて整備していくのです。今回も改修工事は終わりましたが、新しく張り替えた芝もかなりの量に及び、これまでの芝といかに早く『均一』化させていくかが最大の課題です」。
 高地に位置する御殿場コースは、平地のコースに比べて年間の芝の生育期間が約2ヶ月短く、そもそも芝の育成にとってはナーバスな環境にある。今年はすでに生育期を経ており、11月のトーナメントに備えながらも、来春からの育成スケジュールに心を巡らせている。

阿佐比キーパーは10年間、江南コースでキャリアを積み、昨年の3月に御殿場コースに異動してきた。そして御殿場コースのキーパーとして初めて「三井住友VISA太平洋マスターズ」を迎える直前、今回の改修が発表されたのだ。
「御殿場コースのこれまでのコンディションを維持するだけでも大変と考えていたところへ、大改修の知らせ。その時から、次のトーナメントに向けての時間との戦いと葛藤が始まりました。
タイトなスケジュールに加えて、海外スタッフとの仕事でしたので、物理的な距離もあります。とにかく正確な意思疎通に留意し、リースのチームが来日した際には、少しでも不明確な点があれば、都度、確認していきました」。

スピードを求められながら、繊細で正確な造作工事も想像以上にハードルの高いタスクとなった。
「夜間の工事では照明を使っていても、微妙な高低差などは分かり難く、工事業者のスタッフも苦労が多かったと思います」。

前述の通り、大変な日々はこれからも続き、阿佐比キーパーは一息つく暇もない。振り返るような段階ではないが、それでもリース・ジョーンズ氏と松山英樹選手による「世界基準」を目指した「最高の舞台」作りに携わっていることは、かけがえのない体験であり、励みにもなるという。
「まずはとにかく、プレーしていただいた方に『良くなった』といわれるように頑張ります」。

「世界基準」を胸に

1日約5時間、ゴルフコースにおいて最もプレーヤーと接するのがキャディ。サービススタッフの中では、今回の改修が最もダイレクトに影響するセクションである。
グリープリーダーを務める中田有紀キャディにとって、グランドオープンは待ちに待った「スタートライン」だった。

改修中のコースでのラウンドでは、厳しい声を含め、プレーヤーの声を直に聞いてきた中田キャディ。「憧れの御殿場コース」でのプレーを楽しみにしてきたゲストには、申し訳ない思いも多く経験してきた。それだけに、グランドオープンを迎えることができ、より一層身が引き締まる思いがしているという。
「キャディ全体で、1ヤード単位でヤーデージの覚え直しに取り組んでいます。そして細かな所作についても見直し、例えばピン差しでは、背筋を伸ばし、指先まで意識し手を上げ、お辞儀もしっかりとするようみんなで心掛けています」。
これまでも『日本のリーディングコース』という高い意識を持って仕事をしてきというが、「世界基準」というより明確な目標ができたことで、モチベーションの高揚にも繋がっているという。

そして早くも新生・御殿場コースに対する声も聞こえてきているのもキャディならでは。
「みなさんティインググラウンドに立った時は、それほど変わっってないという印象をお持ちになりますが、18ホールを回り終えると『変わってないようで、凄く変わっている』と声を揃えておっしゃります。
さらに競技志向の上級者の方は『難しくなった』と、アベレージプレーヤーの方は例えば『9番、14番は花道が広がり攻めやすくなった』など、それぞれに感想を述べられます。女性ゴルファーからは、レディースティが拡充されたことで構え易くなり、さらに新設されたハザードが絶妙に配されたことで、クラブ選択の思案の幅も広がり、戦略性の面でも楽しさを増したと喜んでいただいております。
まさにリース・ジョーンズさんの言葉通りなので、驚いています」

さらに中田キャディはグランドオープンを迎え、御殿場コースの美しさ、コース管理の素晴らしさを再認識したという。
「本当に綺麗で、私たちもこの最高の舞台に相応しい、最高のおもてなしができるよう一層努力していきたいと思います」

スタッフ全員が目的を共有し、同じ方向を向き、それぞれが最大限の力を発揮することで、初めてスタートラインに立つことができる「世界基準」への道。
大きな試練ではあったが、その思いは浸透し、心を合わせることで御殿場コースの新たなる「文化」が育まれることを期待したい。

次回の『思いの継承、そして昇華』は、「18番ホールの思い」を掲載いたします。